ホーム - ものづくりを支えるプロフェッショナル - 「現代の名工」に選ばれた、旋盤加工のプロフェッショナルに聞く - 【前編】

2009.11.26

「現代の名工」に選ばれた、旋盤加工のプロフェッショナルに聞く 【前編】図面を頼りに、経験を武器に、常に新しいモノを作り続ける。

何をどうすれば図面通りにできるのか
「旋盤加工の名人」の毎日は、困難と工夫と喜びの連続

画像オリンパスの伊那工場では、現代の名工が3名働いています。今回は、平成18年度「現代の名工」に選ばれた、池上俊広(いけがみ としひろ)を紹介します。
池上が受賞した「現代の名工」とは、昭和42年に創設された厚生労働省管轄の制度です。様々な技能の世界で活躍する人を国が表彰するとあって、全国の技能者が「いつか受賞したい」と目指す、大きな目標になっています。

「旋盤加工」という分野で受賞した池上は、意外なことに1970年の入社以来、旋盤一筋で歩んできたわけではありません。逆に、様々な仕事を経験したからこそ、池上にしかできない仕事をし、「現代の名工」受賞につながったとも言えます。
今回は、池上が現在どんな仕事を担当しているのか。また、現場にはどんな苦労があり、どんな創意工夫によって乗り越えているのかを、池上のルーツも交えて紹介します。

「先輩から教わったもの、仲間と研鑽したものが、形になります。」
誰も作ったことがないものを作る。そして時には、そのための道具まで作る

頼れるものは1枚の図面と、今まで積み上げてきた技術や経験だけ。
「図面を見ながら、その通りの形と大きさになるように、金物部品を作っています。1つのものを形にするには部品の加工だけではありません。そのほかにも、治具(じぐ、後述)まで作ります。また、通常の製品以外にも特注品も作ります。私が作るのは、今までにあるものではなく、新しく図面から起こしたものです。」
オリンパスの新たな製品の誕生には、池上が作る新たな部品が、大きな役割を果たしています。

伊那工場で生産される顕微鏡

伊那工場で生産される顕微鏡

「私の担当は、主に丸いものを加工することです。図面に描くことができても、実際には容易に加工できない場合も多く、特に真円に近いものは苦労します。」
一般に、旋盤という作業では、材料を固定した状態で回転させて加工します。しかし、池上が担当しているのは、常に同じものを同じように加工すれば済むような、単純な作業ではありません。材料はどう固定するのがよいか、どう加工するのが適切か、といった工夫がその都度求められる仕事です。

時には、加工に必要な道具を作ることさえあります。例えば、材料を固定し刃物や工具を正しい位置に当てるために使う、治具という道具があります。
「オリンパスでは、『閉めヤトイ』『開きヤトイ』といった治具を使います。しかし、手持ちの治具で間に合わなければ、専用の『ネジヤトイ』を作ります。これで固定して、同じ状態で外側も内側も削ると、変形をかなり少なくできるからです。」
「弘法は筆を選ばず」と言いますが、池上の場合は、いわば「弘法は筆まで作る」でしょうか。

「我々の中に、ノウハウがある。」
サイズ、素材、道具。すみずみまで人が関わっているオリンパス製品
内視鏡

内視鏡

では池上の仕事は、顕微鏡のどういった部分で生きているのでしょう。
「顕微鏡では、つなぎの部分で『アリ』と呼ばれる機構。また、対物レンズや接眼レンズにも多く使われています。」
また、池上は顕微鏡以外に内視鏡の製造にも携わっています。では、顕微鏡と内視鏡とでは、作業にどんな違いがあるのでしょうか。

内視鏡の部品は小さいため、作業はさらに困難になります。また、材料の違いも影響を与えます。例えば、顕微鏡の材料はアルミや真鍮が圧倒的に多いのに対し、水分に触れることの多い内視鏡は、錆びないステンレスが多く使われます。「それでも現在は刃物が進化して、昔に比べると全体的に作業しやすくなりました。」と池上は言います。

池上の作業風景

池上の作業風景

では、素材に適した刃物が何か、といった関連知識はどのように得るのでしょう。
「日本中どこの企業でも、モノ作りは鉄から始まっています。ですので、資料を探したりインターネットで検索したりすると、鉄の加工条件はしっかり研究されていることが分かります。一方で真鍮とか銅、アルミの加工については、鉄ほど研究がなされていないようです。その点オリンパスでは、鉄以外の材料の研究にも随分早くから取り組んできました。だから、これらの加工に関しても、我々の中にしっかりノウハウがあるのです。」

最近では、新しい素材を使う機会も出てきています。
「膨張係数がうんと少ない、ノビナイトという素材があります。鋳型の材料になったりするのですが、これが非常に硬くて加工しにくい素材なのです。」
素材に合わせて加工方法を変える。言うは易し、行うは難しです。過去の様々な経験があってこそ、池上はその都度、適切な対応方法を見つけることができるのです。

12