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2010.02.09

「現代の名工」に選ばれた、旋盤加工のプロフェッショナルに聞く 【後編】成長の肥やしは失敗と、人とのつながり。次の世代に託す、名工の想い。

旋盤もフライスも。いろいろ経験したから、何でもできるようになった
若い技術者にもたくさん経験させたいし、食いついてきてほしい

画像前回は、「旋盤加工」の分野で「現代の名工」を受賞した池上俊広(いけがみ・としひろ)に、現在の担当業務や幼少時代の体験、オリンパスに入社してからの様子を聞きました。今回は、池上が資格の取得にチャレンジしながら身につけたさまざまな業務や、後進の育成、技術の継承、日本のモノ作りに対する考え方などについて、詳しく話を聞きます。

「私1人で100パーセントの力が発揮できるかいうと、それは違う。」
与えられた環境を生かし、人とのつながりを大切にして名工を受賞
長野日報 2006年11月18日記事より抜粋

長野日報 2006年11月18日記事より抜粋(拡大

現場で技術を習得するのは大切ですが、関連する資格を取ったり認定を受けたりすることも、技術者にとっては大きな意味があります。自信もつきますし、自分の技術が確かなものであると証明できます。オリンパス社内にも、テクニカルマスターなど様々な制度があります。「国家資格や技能検定、オリンパス独自の認定制度と、いろいろチャレンジさせてもらいました。」

画像池上の先輩たちもそれぞれ資格を持っていました。「だから、私も取りたいと思った。」若い池上にとってはそれも1つの励みになったようです。試験勉強を先輩と一緒にしたこともありました。若い池上は気楽でしたが、実際の試験では先輩か後輩かは関係ありません。「落ちるわけにいかない。」ある先輩が機械検査の資格を持っていれば池上もチャレンジし、別の先輩が特級を持っていると聞けば、失敗しながらもチャレンジを重ねました。

ベテランとなった今では、試験を受ける側から審査する側になった池上。そんな彼の目には、若い後輩たちの様子がどう映るのでしょう。「中には自分が直接担当している仕事の技能の検定すら、取らずに済ませている人もいる。」と残念そうに語ります。
「技能グランプリ」という全国競技大会が二年に一度開催されますが、かつては職場内で選考会を行うほど盛んに取り組んでいました。「最近は、そういうものに挑戦して技能を上げようと思う人は減っているように思う。」

画像その後、様々な経験を積んだ池上は、「NC」(Numerical Control)すなわち数値制御による加工設備の導入から立ち上げまでを担当することになりました。しかし、NC導入により夜間や二交代の勤務体制が敷かれるとあって、池上は当初これに大反対したそうです。
「でも、オリンパスだけじゃなく世の中がそういう流れになっているなら、うちも合わせないと。」時代の流れを受け入れると決めた池上は、元々数学好きだったこともあり持ち前のチャレンジ精神を発揮して猛勉強を始めます。研修には、プログラム作りなどの専門的な内容も含まれていました。覚えた内容を伊那工場に持ち帰り、勉強会で教えることもありました。「面白いもので、教える経験をすると自分でももっと勉強するんだよね。」

池上とチームのメンバー

池上とチームのメンバー

旋盤の職場に戻ると、導入されたばかりの新しい設備を立ち上げて軌道に乗せるという大変な仕事が待っていました。でも、池上にとってはこれも「いい刺激」。その後もフライス、組み立て、研磨と、様々な職場を経験しながら技術者としての幅を広げていきました。「技能検定も、それぞれ違う設備で挑戦できた。何でもできるようになって、だんだんいい状態になったね。いろいろな職場を経験したので顔見知りも増え、分からないことがあると、以前の職場へ行って教えてもらったりする。とても助かるよ。」池上は、人とのつながりの大切さを強調します。

「現代の名工」受賞も、「最初から目標にしたわけじゃない。先輩たちがすごくて、そのすごい先輩たちに教えてもらったことが私の肥やしになった。新しいテーマに取り組むときも、私一人でコツコツやるんじゃなくてチームのメンバー皆でやっている。たまたま私が“おいしいところ”をもらって受賞しただけ。仲間と一緒に受賞したんだよ。」

「機械がドカンというと、アレっ?と思う。失敗が肥やしになる。」
教えるなら、失敗させるだけではダメ。原因を一緒に見る、話す、考える

技術者としての道を歩き続け、高みに登った池上。今は、自分の日々の仕事をこなしながら、後進を指導する立場です。どんな方針で技術をどう継承しようとし、また、日本のモノ作りをどんなふうに見ているのでしょう。

今の若者は全体的に覇気とか元気とかいったものが、自分たちの世代とは違うかもしれない。昔とは違い、自分が稼いで大家族を養うといった立場の若者は少ないでしょう。でも、「仕事が好きなやつは、食いついてくる。」と池上は感じているようです。

池上はどちらかというと、何でもできるオールラウンドな技術者です。しかし、技術者としての道には、1つの技術を極める方向もあるのではないでしょうか? 「若い時は、いろいろ数多く経験させる方がいい。例えば、覚えるだけ、触るだけでもいい。そうすると、その分、人間が大きくなる。いろいろ経験すれば考えることも楽になるし、30代前半には『自分が』と前向きな部分も出てくる。」

画像では、池上が考える理想的な教育プランは、どんなものでしょう。
「まずは旋盤を3か月間教える。フライスの工程も同時進行だね。最初は難しい仕事ではなく、経験が少なくてもできる仕事がいい。そして、NCにもちょっと入ってもらうといいね。物事をいろんな方向から見られるようになるから。あと、研磨も経験させたい。研磨は難しい仕事が多いから、簡単にできる適当なものをうまく探して。」

池上によれば、フライスを経験した技術者は四角いものを作るイメージで発想するようになり、図面を見る能力が発達するのだそうです。しかし池上は、自分の体験からそれだけでは足りないと考えています。「ものを回転させて加工する旋盤を経験すると、フライスとは別の丸いものをイメージする力がつく。」これで、どんな図面を見たときでも、何が最適かを柔軟に考え、比較、検討、判断できるようになるのだそうです。

「私の仕事場には、丸いものも四角いものも扱える設備がある。何でも自分でできるようにね。ただ、機械を自分で使いこなせないと、ある部分を別の人に頼まなくちゃいけない。その分、1つの仕事を完成させるのに時間がかかる。」池上は、技術者として仕事をする以上、1つのものを自分だけで完成させる力を身につけた方が良いと考えているのです。

池上の作業風景

池上の作業風景

「マニュアルの機械は、1年、2年と経験させたいね。機械で削るとき、モーターがうなる音で重さや軽さを感じることができるし、自分の操作がどこか間違っていると、ガーンと大きい音が出たり、刃物が壊れたり、材料がガクンと引き込まれたりする。そういうのを体で感じると、『これじゃダメだ』と自分で気付く。そういうことを、マニュアルの機械で覚えさせたい。」こうした経験は、プログラムで動くNCにおいて様々な条件を決める際にも役立つそうです。

池上は、若者を育てるには、温かい目を持つことが大切と考えています。「仕事を覚える時期は、誰かがしっかり見ててやらなきゃ。何かあった時は一緒に見て、どこがまずかったのかを話すこと。ただ失敗させればいいわけじゃないから。」“困ったときは、いろいろな人に聞きに行こう。自分一人で聞きに行くのが不安なら、誰かと一緒でもいいから、先輩に質問しよう。”これが、池上から若い技術者へのメッセージです。

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